-林の中-

「のどかだなぁ…」

自らの置かれている状況は遭難状態という中、カミヤは妙にこの状況を楽しんでいた。
青空の下、太陽に照らされた木々は明るく彩り、時折聞こえる鳥の声は風で生まれる葉音と見事に調和している。
そして今いる者を誰も咎めも呼びとめもしない。
あまりにのどかで、あまりに平和。何かから解放されたように自由な時間はとても心地よく。
カミヤの精神状態を落ち着かせるには十分すぎるものだった。

「しかし…我ながら適応能力があるというか…1人で遭難したらもっと慌てるかと思ったけど以外と冷静になるもんだな。」

頭を掻きながら苦笑するもそれに同意するものはいない。
途端に寂しくなるも自分でどうにかなるものでもないので気を取り直していると、奥の茂みから何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

ガサ…ガサ……

「…蛇とかだったらどうしよ。」

食う気無くすよなぁ…等と不謹慎な事を呟きながら腰にあるナイフに手をかける。
あまり私生活で動物を捌く機会のない日本人なら敬遠するかもしれないが、この男にはそれが無いらしい。
腰を浮かせ素早く飛びかかれる体勢になると音の主が何か解るまで静かに待っていた。

一分…

二分……

未知の物に対する警戒と、狩り独特のストレスと緊張で洗ったばかりの額からは再び汗が滲む

音がすぐ近くまで近づき、目の前の草が揺れ茶色の毛が見えた時、カミヤは飛びかかった。