カゲンは、微かに開かれた鉄のドアを徐に開き、中へ入った。
 薄暗い部屋の中、まず目に入るのは、空になった薬の瓶が投げやりに置かれてある凸凹の鉄テーブル、冷ややかな鉄の壁に付けられているのは、頭が打たれたように煩く一秒一秒響き続ける奇妙な鉄時計だ。
 カゲンは、それを確認すると直ぐに、きょろきょろ目を動かし周囲を見渡した。
するとテーブルから真正面にある鉄壁に、怪しげなものが取り付けてあるのが見つかった。
 それは、鉄製の手枷足枷胴枷だった。カゲンは、眉をひそめる。

「なんて残酷な……アラハバキは相当クレイジーな奴だな」

いや、まてよ――この残酷グッズの胴枷部分にウェーブのかけられた真っ黒な髪の毛を一本見つけた。カゲンは、その髪の毛を親指と人差し指でつかみとる。

「ジュノ……」

他には考えられない。きっと、彼女はコイツに嵌められていたんだ。
 カゲンは髪の毛を床に落とすと、ふたたび周囲を見渡した。残酷グッズから右に振り向くと、その先には、何かの部屋があった。ドアは大人の指四本分のすき間が空いている。カゲンは直ぐに歩み寄り、ドアの壁に手をかけて限界まで開くと中へ入った。

 ドアから入って、左手の壁際には細長い鉄の棚がある。その上には、凸凹としていてヘンテコな鉄の電話機が置かれてあった。部屋の中央の鉄テーブルの上には、意味のわからない鉄くずがいくつも散らかっている。その中に、誰かの似顔絵が描かれた《危険人物》や《罪人》と書いてある紙が何枚か置かれてあった。

「なんだこりゃ」

カゲンはそう言って、眉をひそめながら上部分に《危険人物》と書かれた紙を手にとった。そこに描かれている人物は、片耳にいくつものピアスをしたいかにも怖そうな雰囲気の黒坊男だった。その似顔絵のすぐしたには、《アガリア》という名前が書いてある。ほかの紙も一通り見ようと、アガリアの描かれた紙をテーブルに戻した。カゲンは、コピー機のように素早く紙を手で擦ってずらしていくと、《罪人》と上部分に書かれた紙を見るなりピタリと手を止めた。カゲンは、その紙に描かれている人物は、他ならぬジュノだと直ぐにみとめたのだ。ウェーブのかかった髪型や、ほりの深い目元、落ち着いた雰囲気は彼女そのものである。似顔絵の下には、やはり《ジュノ》と書かれてあった。

「罪人? まさか、そんな」

そう言って、ジュノの描かれた紙を手にとり、数秒見つめると、裏返してみた。すると、そこには真ん中の左側に小さい文字でメモが書いてあった。それには、こう書かれてある。
《あの方を無敵にするためには、この女を罪人にして処刑に》
 カゲンの手は震えだした。誰がこんなことを考える? そもそも、あの方ってどの方だ? これは、アラハバキではないな。ジュノはアラハバキが生きていた頃、まだ産まれていない筈なのだ。これは、ジュノをここに連れこんだ奴の可能性が格段に上がった。他にも、何か手がかりになるものがないだろうか? 左を振り向き、ついで、右を振り向く。すると、右手に白いものがちらりと視界に入ったので、これは何かとくるりと体ごと右へ向けた。