「カゲン。お前に託そう……」

ヴィーナスの重たいこの口調は、心に深く傷が付いていた事を物語っている。

「女王……様」

カゲンは、呟き声を漏らすと、眉を下げた。

「ゼウスの決め事など……下らん。カゲン、闇の精霊・封印の扉を開いた犯人のしよこを掴め。ただし、日が沈むまでに掴めなければ、ジュノの処刑を決定する。急げ、時間はない」

ヴィーナスは、芯の通った表情を浮かべ、命令を下した。

「分かりました」

重い命令だ。カゲンは、目力が入る。

彼は、素早く踵を返し、処刑場の外へ駆け出して行った。


 アグライアは、彼の駆け出して行った後ろ姿を冷たい視線で見送った。そして、フンッと鼻で笑う。
 別に、カゲン如きに期待など、していない。馬鹿みたいに友達思いの、ただの男神ではないか。
 そうして、アグライアは、ポケットに両手を突っ込んだ。

 エンデュは、流れた冷や汗を拭き取ることを忘れていた。
 ジュノは、不安げに、こちらを見詰めている。エンデュは、大丈夫だ、と言わんばかりに上下に首を振り、優しい笑みを浮かばせた。
すると……ジュノは、ようやく、おもむろに口角を僅かに上げてくれた。
 同時に、これくらいの事しか出来ない自分に、腹が立つ。