ツンッと鋭い嘴の先を持つ、キツツキは、微風に流されるがまま、空を優雅に飛び回っていた。

 その時、偶然、美しい緑色の球体を目にしたキツツキは顔つきが変わった。
この球体に、一目惚れしたのだ。

 一目散に、キツツキは、方向転換をして、緑色の球体を目指した。

 たどり着き、球体に止まったキツツキ。
プカプカと踊る様に浮かんだ緑色の球体に、悪戯しようと、自慢の鋭い嘴で、一つ、突っ突いた。

 この瞬間に、パン!! と言う轟音が辺りに鳴り響いた。

 驚いたキツツキは、一目散に、何処かへ飛び立って行った。



 同時に、ルーン少年。

緑色の風船が割れた轟音で、思わず――「はっ!!!!」と、驚きの声を漏らす。

 この瞬間。ルーン少年は、我に返った。



 この、処刑場の空間、風は微かに入り込んだ。彼らの髪は風のまま、揺れ動く。

 徐ろに、ヴィーナスは口を開いた。

「……やはりか」

しっかりとした、冷静な口調だ。

「分かっていた。……初めから……分かっていた」

ヴィーナスのよく通った声は、処刑場の中、響き渡った。

「彼女のストーンには……人間の心が宿されている。彼女を殺せるのは……お前ではない」 

ヴィーナスは、アグライアに、真っ直ぐな瞳を向けた。

アグライアは、眉間にしわを寄せる。不機嫌そうだ。

この時。エンデュは、これまでに無い、肌寒い予感が――頭を過った。

まさか、であって欲しい。

ヴィーナスは、エンデュに視線を向けた。

「……エンデュ。お前も、分かっているはずだ。仕方が無いのだ……彼女を殺せるのは……エンデュ。お前の様な、神だけだと……」

冷静な口調だ。しかし、瞳は違う。
冷静な感情の瞳とは、言い難かった。
この瞳には、微かに、水が滴っていたのだから。


 やはり、もう、手立てはないのか?

俺が……ジュノを……。まさか、こんな事って……。


微かだが、体中が震えたような感覚に襲われた。

 しかし、ヴィーナスの言う事は正しかった。人間の心が宿されたストーンは強力な力を持っている。その神を、殺せる神は……同じく、人間の心が宿されたストーンの持ち主だけ……という事。

 この空間の、重苦しさは増した。
冷えた空気は、さらに冷え、全身が凍りついた様に、体はびくともしなくなる。

 その時、だ。

「もう少し、時間をくれ! 頼むよ……」

カゲンだった。大きな彼の声は、この冷えた空気も燃え盛る様に熱するものを感じた。

アグライアは、鼻で笑う。   

「あのねえ、カゲン君。もう、この女は」

…………しかし、ヴィーナスがアグライアの言葉を遮る。

「良かろう」

ヴィーナスの言葉に、アグライアは片方の眉を大きく上げた。