ルーン少年は、口笛を軽快に鳴らしながら、補助輪付き自転車を漕いでいた。ハンドル部分には、緑色の風船が付いている。そこには、下手に目と口と鼻が黒のマジックペンで描かれていた。風邪に吹かれる度、風船はプカプカと踊っている。口笛のテンポとぴったりだ。

 こうして、いつも、目的も決めず自転車は走っている。理由は、単純。ルーン少年は、この自転車を気に入っているからだ。

 並木道抜けて、草原抜けた。

 ルーン少年は、焦げ臭い香りを感じると、口笛を軽快に鳴らしながら、その先を見る。目に見えたのは、炎の塊に包まれ、出られなくなった二人の王家に仕える家来の姿だった。

 思わず、ルーン少年。自転車を止めた。

 痩せた方の家来。パニックに陥り、小太り家来の腕を痛いほど締め付けていた。腕についた、脂肪のブヨブヨは運動不足を物語っている。

「どうするんだよお!」

それは、甲高い声で、震えた口調。

さらに、小太り家来の腕を引きちぎる程強く、締め付ける。

小太り家来。暑苦しさと焦りの入り混じった汗をだらだら垂らして、言った。

「その前に、お前、その手離せ!!」

 その間にも、見る見ると自分達を取り巻く炎は、メラメラと強さを増してゆく。二人のパニック状態は、極限に達した。顔が大きく歪む。

 ルーン少年は、炎のすぐ外に、あの男の姿が有るのを見つけた。

 あの男とは……カゲンのこと。

 彼は、余裕の表情を浮かべている。彼は、右手を大きく上げると、指パッチンした。同時に、炎は焜炉の様に、一瞬にして消える。

 開放された二人の家来は、ふらついている。服はボロボロ、頭はチリチリに。真っ黒焦げになった二人の顔からは、目を見開き、口を閉じる事を忘れてるのが良く分かる。ヘロヘロになった二人は、一秒も立つ前に、倒れ込んでしまった。二人の、ガクガク震えた足は、持ち堪えられなかったようだ。この衝撃、真緑色の草達が、のわっと揺れ動く。

 カゲンは、何事も無かった様に、ここから直ぐ先、処刑場へと向かい、颯爽と歩いて行った。

 ルーン少年は、目と口を大きく開いた。口を閉じる事も忘れている。