ジュノは、無感情な瞳で、足元の景色のみを見詰めた。
一人の、背の小さい、しょうゆ顔をした家来は、ヴィーナスの耳元で呟いた。
「……そろそろ、時間では」
ヴィーナスは、冷静な表情で、ただ、頷くと、右手側に座り込む大勢の神々の方を見やり、言った。
「アグライア」
ヴィーナスに呼ばれた声に、一人の女神は立ち上がる。
爆発した様な天然パーマのボサボサ頭は、丸で、雷に撃たれたようだった。それに、服装はかなり露出が多い。短パンに、奇妙な柄のキャミソール、真っ黒なレザー生地のロングブーツを着飾っていた。
彼女は、無言で、ヴィーナスの近くへと歩いて行く。筋肉質の足が、ドシドシと音が鳴り響いていた。
彼女は、短パンのポケットに片手を突っ込みながら、ヴィーナスの光が消えた様な目を見た。
心底、笑っている様な表情を浮かべているのが、処刑台からでもはっきりと分かる。
ジュノは、下唇を噛み締めた。
「光栄だわ。アタシが、あの闇の女神を殺せる事にね」
そう言って、アグライアは、品の欠片もない不潔な笑顔を浮かべた。
エンデュは、眉をひそめる。彼女の笑顔には、熱が入るように憎いものを感じた。
今も尚、アグライア。短パンのポケットに手を突っ込みながら、ヴィーナスの光を失った様な瞳をどうとも思わず、見下ろす。
ヴィーナスは、心を抜き取られた人の様に、無感情な表情を浮かべている。顔は、仮面の様に、ピクリとも動かさない。目の前に居る、アグライアが目に見えている筈が、見えている様に感じる事がない。辺りが、暗闇に包まれる様なそんな感覚を彼女は覚えた。
しかし、おもむろに口を開いた。
「心構えはできているか」
この、冷静な口調のみ、しっかりした感情を感じ取れた。
アグライアは、片方の口角を上げると、鼻で笑った。
「女王様、アタシを誰だと思ってるの? 心配しないで頂戴。直ぐに終わらせるわ」
彼女は、そう言うと、虚ろな表情を浮かべているジュノを見やり、くるりと処刑台の方へ体の向きを変えた。両手を胸の前に構え、ジュノを鋭く釣り上がった目で、睨みつける。
エンデュの額から、冷や汗がたらりと流れた。
ふと、ジュノとアグライアの丁度真ん中に、瓶が落ちているのが見える。それは、鏡粉だった。きっと、彼女はこれを想定して、ライト・ノーノ先生に……。
不潔に微笑みながら、彼女は呟いた。
「……黄泉の国へ、さようなら」
アグライアの両手から気は溢れ出した。その眩い光は、見る見る大きく広がっていく……。見ている事が出来なくなる光の強さだった。
咄嗟に、エンデュは全力で駆け出した。光から、鋭い痛みが眼球に走る。彼は、片方の腕を目の上に被せながら、駆け走っていた。光に埋もれる様に落ちている瓶が見付かると、無我夢中で、彼は、瓶を蹴り飛ばした。瓶は、宙に浮き、一秒も立たずに、熱く化した床に落ちてゆく。床に付いた衝撃で、瓶にひびが入り、大きく割れ、砕け散った。この大きな物音は処刑場中に鳴り響いた。
中に入っていた鏡粉が溢れんばかりに流れ出る。鏡粉は、丸で、意志を持つ様に、反射的にミラーのバリアを張り出した。大きな鏡と化した鏡粉が、アグライアの光の気を弾き返す。光は、アグライアに向けて一直線に眩い光を放った。
アグライアは、ぎくりとする。
一人の、背の小さい、しょうゆ顔をした家来は、ヴィーナスの耳元で呟いた。
「……そろそろ、時間では」
ヴィーナスは、冷静な表情で、ただ、頷くと、右手側に座り込む大勢の神々の方を見やり、言った。
「アグライア」
ヴィーナスに呼ばれた声に、一人の女神は立ち上がる。
爆発した様な天然パーマのボサボサ頭は、丸で、雷に撃たれたようだった。それに、服装はかなり露出が多い。短パンに、奇妙な柄のキャミソール、真っ黒なレザー生地のロングブーツを着飾っていた。
彼女は、無言で、ヴィーナスの近くへと歩いて行く。筋肉質の足が、ドシドシと音が鳴り響いていた。
彼女は、短パンのポケットに片手を突っ込みながら、ヴィーナスの光が消えた様な目を見た。
心底、笑っている様な表情を浮かべているのが、処刑台からでもはっきりと分かる。
ジュノは、下唇を噛み締めた。
「光栄だわ。アタシが、あの闇の女神を殺せる事にね」
そう言って、アグライアは、品の欠片もない不潔な笑顔を浮かべた。
エンデュは、眉をひそめる。彼女の笑顔には、熱が入るように憎いものを感じた。
今も尚、アグライア。短パンのポケットに手を突っ込みながら、ヴィーナスの光を失った様な瞳をどうとも思わず、見下ろす。
ヴィーナスは、心を抜き取られた人の様に、無感情な表情を浮かべている。顔は、仮面の様に、ピクリとも動かさない。目の前に居る、アグライアが目に見えている筈が、見えている様に感じる事がない。辺りが、暗闇に包まれる様なそんな感覚を彼女は覚えた。
しかし、おもむろに口を開いた。
「心構えはできているか」
この、冷静な口調のみ、しっかりした感情を感じ取れた。
アグライアは、片方の口角を上げると、鼻で笑った。
「女王様、アタシを誰だと思ってるの? 心配しないで頂戴。直ぐに終わらせるわ」
彼女は、そう言うと、虚ろな表情を浮かべているジュノを見やり、くるりと処刑台の方へ体の向きを変えた。両手を胸の前に構え、ジュノを鋭く釣り上がった目で、睨みつける。
エンデュの額から、冷や汗がたらりと流れた。
ふと、ジュノとアグライアの丁度真ん中に、瓶が落ちているのが見える。それは、鏡粉だった。きっと、彼女はこれを想定して、ライト・ノーノ先生に……。
不潔に微笑みながら、彼女は呟いた。
「……黄泉の国へ、さようなら」
アグライアの両手から気は溢れ出した。その眩い光は、見る見る大きく広がっていく……。見ている事が出来なくなる光の強さだった。
咄嗟に、エンデュは全力で駆け出した。光から、鋭い痛みが眼球に走る。彼は、片方の腕を目の上に被せながら、駆け走っていた。光に埋もれる様に落ちている瓶が見付かると、無我夢中で、彼は、瓶を蹴り飛ばした。瓶は、宙に浮き、一秒も立たずに、熱く化した床に落ちてゆく。床に付いた衝撃で、瓶にひびが入り、大きく割れ、砕け散った。この大きな物音は処刑場中に鳴り響いた。
中に入っていた鏡粉が溢れんばかりに流れ出る。鏡粉は、丸で、意志を持つ様に、反射的にミラーのバリアを張り出した。大きな鏡と化した鏡粉が、アグライアの光の気を弾き返す。光は、アグライアに向けて一直線に眩い光を放った。
アグライアは、ぎくりとする。


