「あ!」
渡さなきゃいけないのに
話したこともない彼を前に
怖じけずくあたし。
そんなこといってる間に、
男の子は乗り換えのホーム行きの
エスカレーターに乗ってしまった
「な、なにやってんのあたし…」
急いでエスカレーターにのる。
大丈夫。
まだ電車はこない…。
そう言い聞かせて
ホームに降りた。
…いた。
少し進んだ、
ベンチのところに荷物をおいて
目を閉じながら
腕をくんで音楽を聴く、
男の子。
……声、掛けづらい…。
あたしは気合いを吸い込んで、
「あの…!」
と、声を出した。
が、
なぜか気づく様子がない。
…えええ。
「っ、す、すみません…!」
まだ、気づかない。
…どんだけ大音量なの!?
すこし自棄(やけ)になりながら
あたしは叫んだ。