週末の真夜中、やっぱり、私は家を出た。
 勝手口を出て、家の裏道へ向かおうとした時、
「高森」
 小さく呼ばれて驚いて顔を上げた。
 そこに、彼が立っていた。
 私は慌てて近づいた。
「天野くん、どうして――」
「どうせ、今日も出てくるんだろうなって思ったからさ。こっち」
 彼がくるりと向きを変えて歩き出す。
 裏道を渡る彼に、私はついていく。
 どこに行くんだろう。
 いつもの通り道じゃない狭い道をどんどん歩く。
 月が明るいので、街灯がなくても大丈夫だった。
 一番奥まで行くと、石垣と不規則な幅広の階段が斜めに見えた。
「あれ? ここって」
「そう、神社の裏に通じてる道」
 こちら側からも行けるのか。
 そう言えば、小さい頃はここを通って神社に遊びに行ったことがあった。
 神社に裏から行くのは良くないと聞かされてからはずっと通っていなかった。
「ただし、夜は月が出てない時は通らない方がいい。ここ、灯りないから」
 確かに、今は月が出ているから段差が見えているけれど、月明かりがなかったら全く見えなくなるだろう。
 階段を上ると、本当に神社の裏側だった。
 前に回っていつもの階に座ると、月が綺麗に丸く見えた。
「今日は、勉強しなかったの?」
「水曜日からずっとしてるから、今日は休み。月見でもしようかと思ってさ」
 大きくのびをしてから、彼が月を見上げる。
「じゃあ、これ聞こうよ。BGM代わりに」
 私はポケットからミュージックプレイヤーを取り出した。
 ダウンロードした音楽を入れてある。
「クラシック?」
「ううん。それだと、天野くん眠くなっちゃうでしょ?」
 イヤホンの片側を渡す。
 私が右を、彼が左のイヤホンを着ける。
 一曲聞いてから、私は音楽を一度止めた。
「どう?」
「いいな。高森が好きそうな曲だ」
「そうかな」
「声が、綺麗だった」
「独特でしょ」
「高森って、何でも聞くんだな。クラシックしか聞かないかと思ってた」
「素敵な声と歌なら、別にクラシックじゃなくてもいいんだ。今流行ってる歌も、みんなと一緒に聞くけど、あんまり好きじゃないかな」
「叫びだしたくはならない?」
「うん。喉も渇かない」
 顔を見合わせて、私達は笑った。
「この曲なら、俺ももう一度聞きたいなって思う」
「ホントに?」
 嬉しかった。
 私が好きな曲を、彼も気に入ってくれた。
「もっとあるんだよ。聞く?」
「うん」
 イヤホンを分け合って、二人で月を見ながら音楽を聞いた。
 美しい夜だった。
 いつまでも、こうしていたいと思った。