高1の夏。
私はバイトを始めた。

ファミリーレストラン

働くということは楽しくて嫌じゃなかった
けど
男の人の集団が来ると
息苦しくなる。

あの日がフラッシュバックする。

「店員さん、可愛いー」

そう言われる事が
そう言ってる顔が
気持ち悪い。
顔が引きつる。
上手く話せない。

キャー!!
とまではならないが
触れられるのは苦手だ。

そんな日は
バイトから帰ると
ベッドから抜け出せない。

ある日
酔っ払ったおじさん二人組が入ってきた。
注文を聞いていると
一人が私のお尻を触った。

吐き気がする。

おじさんの手を叩き
裏へ逃げてしまった。

「処女じゃあるまいしケツくらいで(笑)」

と笑う声が聞こえる。

吐き気が止まらず帰らせてもらった。


帰ってすぐベッドにもぐり
大丈夫。と繰り返した。

布団をめくられ

「何ぶつぶつ言うとんねん(笑)」

太一がアイスを差し出す。

なぜか涙が出てきて太一に抱きついた。
私が抱きつくと
太一はいつも強くギュウっとしてくれる。

「よしよし、何かあったか?」

「男なんかおらんなったらええねん…」

「(笑)」

「かーくんと太一は平気やのに…」

「またバイト先でアカンかった?」

「…うん、今日は吐き気が止まらんかった」

「そっか…」

子供の頃より筋肉がついた体
見上げるほどに伸びた背
ちゃんと男の子。
なのに
太一には抱きついたって平気。

「アイス食お!溶ける」

ベッドに座ってアイスを食べながら

「チューしよか」

太一が呟いた。

私が返事に困っていると
太一は続けた。

「俺とチューして嫌じゃなかったら付き合おう」

「なにそれ(笑)」

「愛」

「愛?」

「そう愛。俺は多分、初めて会った日から志穂が好きやった。それが愛やと最近、気付いた」

「今のままじゃアカンの?」

「アカン(笑)俺の愛が志穂を救う」

「(笑)」

私をジッと見つめる。

髪に触れ、頬に触れ
唇が近づいてくる。

ドキドキする。

けどあの息苦しさとは別のドキドキ。

太一は優しくキスした。

「嫌?」

首を振った。

すると次は少し激しめのキスをした。

「付き合おう志穂」

「…うん」

「まじで!?よっしゃ!!」

太一は満面の笑みで

「好きやで」

と抱きしめてくれた。

太一を好きと思う気持ちが
愛かどうかは正直わからない。
でも
太一とのキスは心地よかった。

16歳の8月
私たちは付き合い始めた。