「何かあったの?」

仲間には加わらず、壁にもたれかかっていた早苗ちゃんに尋ねてみる。

「今日、姉さんが中学校から呼び出しを食らったのよ。櫂が同級生と殴り合いのケンカをしたんですって」

「櫂くんが?」

「こっちもびっくりよ。何があったのか聞いても答えないから、姉さんもヒートアップしちゃって……」

……なるほど。

リビングから漏れ出る声に耳を澄ませてみれば、言い争っているのは佐藤さんと櫂くんに違いない。

もっとも、聞こえてくるのは理由を問う佐藤さんの声ばかりだったが。

あの二人が喧嘩をするなんて珍しい。

櫂くんは家のことも率先して手伝っているし、弟妹の面倒だって嫌がらない。

大人びた発言をすることはあっても中学生という年齢を考えれば微笑ましいと思えるし、部活に打ち込む姿は健全そのものだった。そう、反抗期らしいものが訪れた気配もない。

その櫂くんが同級生と殴り合いのケンカ?

佐藤さんが不審がるのも無理はない。

櫂くんが佐藤さんを怒らせるなんて、これまでなかったからだ。