己のロッカーからコートとマフラーを取り出すと、大急ぎで身に着ける。

ヒールなしの内履きからお気に入りに茶色のブーツに履き替えれば、帰る準備は万端だ。

「じゃあ、また明日」

「お疲れ様」

椿に一声かけると、バッグを肩にかける。

(急がないと……)

特売の日に買いだめしておかないと、我が家の食卓は相当寂しい状態になる。

家族7人+鈴木くんの食卓を預かる身としては、絶対に避けたいところだ。

鼻息を荒くすると、すみませんと人を掻き分けて出入り口まで通してもらう。

出入り口までたどり着いた私の前に最後に立ちはだかったのは、凄いものを見たと豪語していた女子社員だ。

「ごめんね……」

通ってもよいかと尋ねようとした、その時だった。

「あの関谷さんと営業の鈴木さんが二人で歩いてたんだよ!!やっぱり、あのふたり付き合ってたんだね!!」

休みの間ずっと誰かに言いたくてうずうずしていたのだろう。女子社員の頬はささやかなロマンスを目撃した興奮で紅潮していた。

彼女とは対照的に頭の奥がすうっと冷めていくのが分かった。