……幸せな日々に翳りが出来るなんて一瞬のことだ。

「聞いてよ!!先週の金曜日の飲み会の帰りに凄いもの見ちゃった!!」

ロッカールームの扉を開けるなり大声で叫んだのは、新人と思わしき女子社員だった。

「元気ねえ……」

椿はそう呟くと、ゆっくりとした動作でベージュのカーディガンを脱ぎ出した。

まったくだと心の中で同意して、キャッキャと騒ぐ様子を遠巻きに見つめる。

終業時刻直後の女子ロッカー室は非常に混み合っていた。

これから遊びに出掛ける人は髪型とメイクを直し、会社用の地味な装いを脱ぎ捨てる。

真っ直ぐ帰宅する人は黙々と身支度を整え、ロッカールームを出るタイミングを見計らっている。

もちろん、私は後者だ。

今日はみれいゆの特売日だから、お肉と魚を買って、家に着いたら洗濯物を部屋に入れて、乾燥機に放り込んでいたシーツを取り出して……。

あ、しまった。牛乳を切らしていたから、忘れずに買っておかないと。

頭の中はこれから片付けなければいけない家事のことで一杯だ。

……そうだ。女子社員に気を取られている場合ではなかった。