リノリウムの床から鳴るコツコツという靴音が近づいてくる。

手に力が入らずうなだれる私の代わりに扉を開けるとすれ違いざまに囁く。



「待ってる」



パタンと扉が閉まって、佐伯が出て行ったことを知る。

(何を?)

何を待っているというの?

幸せの谷底に真っ逆さまに堕ちていくような感覚に眩暈がしそう。

あいつに弄ばれてもいいなんて思ってはいけない。

もうこのルージュは使わない。

あいつの剥がしたルージュの色。





スカーレット。