「どうしたんですか?」

ドクンと胸が高鳴る。

佐藤先輩に申し訳ないと思っても、こればかりはどうしようもできない。

「出張の帰りに少し寄ったんだ。明日の会議で使う資料にどうしても目を通しておきたくて。関谷さんは?」

「私は……忘れ物してしまって……」

「じゃあ、一緒に帰る?駅まで送るよ。もう遅いし」

鈴木さんは流れるような仕草でビジネスバッグに資料を入れると、私の背中に手を添えた。

……鈴木さんは気のない女にも優しかった。

勇気を出して食事に誘ったこともあった。社内で露骨に話しかけることもした。

鈴木さんはアプローチされている最中も突き放すようなことはしなかった。その代りにやんわりと距離を置いていくだけ。

私にはどうしても会社の同僚という一線を越えることは出来なかった。

無用なトラブルを巻き起こす母親譲りの色素の薄い肌や、ふわりと揺れる栗毛や、目鼻立ちのはっきりした顔立ちは男女問わず、こぞって褒め称えられるのに。

……鈴木さんが私を振り返ることはなかった。

私と佐藤先輩では何が違うのだろうか?