「なんだか、悪いことをしている気分だわ」

「なんで?」

冷えた身体を温めるのは鈴木くんの役目だ。唆した責任はとってもらわないといけない。

「だって、家族にも内緒でこんなことしてる」

「裸で抱き合うほど仲良しだって言ってどうするの?」

「そうね。困るわよね」

クスクスと笑みを零せば、黙らせるようにキスの雨が降ってくる。

シーツと鈴木くんの体温に包まれて、淡い余韻に浸る。

彼の胸にもたれて、薄暗い室内に響く甘い雨音に耳を澄ませる。

「今日は甘えたい気分なの」

「どうぞ、思う存分」

稲光で映し出されたシルエットがふたつ重なる。

雨はいつか止むだろう。けれど、もう少しだけ時間を頂戴。

……彼が私の身体を温め終わるまでは。

嵐の夜の秘め事は心の奥にしまったまま、私は素知らぬ顔で家路につく。