「おはよう……佐藤さん」

「おはよう……鈴木くん」

一夜明け、互いに気まずい思いをしながら挨拶を交わす。鈴木くんは昨日の樹の提案通り、お昼過ぎになると我が家を訪れたのだった。

「すごいクマね」

鈴木くんの目の下には寝不足のせいと思しきクマが出来ていた。徹夜でゲームをするとよくこういう顔で家に遊びに来ていたからすぐに分かった。

「実は昨日眠れなくて……」

行き場をなくしたように鈴木くんは右手で首の後ろをカリカリと掻いた。

「私も……」

寝つきは良い方だと自負していたけれど、こうも眠れないなんて初めてのことだ。

ベッドの中で寝返りを打っている内に、先に夜明けがやってきてしまったのだった。

「そう、なんだ……」

ぎこちない会話が途切れると、沈黙が私達の間を通り抜けて行く。私も鈴木くんも会話がなくても平気なタイプだったのにおかしいな。

「お、来たか」

ふたりして玄関でモジモジしているとひろむを抱っこした樹が現れて、私達をリビングへと追い立てる。

「陽、恵。二階に行ってろよ。鈴木が姉ちゃんに大事な話があるんだと」

「えー!!なんで~?」

ゲームの途中だった陽はあからさまに不満を訴えた。

「いや、樹くん。大丈夫だよ。それに、みんなにも聞いていて欲しいんだ」