プロポーズに対して消極的になっているとみると、樹はこれでもかと大袈裟なため息をついた。

「あー……。姉ちゃん、俺さ……。ボチボチこの家を出ようと思ってるんだ」

「え……?」

樹の突然の告白は、私を更に動揺させた。

「別に家のことが嫌になったってわけじゃないからな?バイトで金も溜まったし、空き部屋を格安で紹介してもらうツテも出来てさ。反対するか?」

「ううん。そんなことない!!樹にはいつも助けてもらってきたし……」

男の子だもん、家族から離れてひとり暮らしがしてみたいと思うのは当然だ。

大学に通って、妹弟の面倒もみて、その上バイトまでして、これまで自由な時間が持てなかった分、樹の望むことは叶えてやりたい。

心の底からそう思っているのに、樹はなおも険しい顔で問いかける。

「今は俺だけかもしれないけど早苗も、幼稚園児のひろむだっていつかはこの家から巣立って行く日がやってくる。それは必ずやってくる未来なんだぞ。その意味がちゃんと分かってるのか?」

必ずやってくる未来を本当に理解しているのかと改めて問われると、答えは否だった。

樹が何を言わんとしているのか、途端に分からなくなる。