「んで、鈴木。姉ちゃんに何したんだ?」

樹は険しい表情で腕を組むと威嚇しながら鈴木くんを問い詰めた。返答次第では暴力をも辞さないという強い口調である。

「俺はその……ただ……プロポーズを……」

「……プロポーズ!?」

鈴木くんが困ったようにそう言うと、樹は口をあんぐりと開け絶句した。

そして、私と鈴木くんの顔を交互に見比べ、文句を言うべき相手として鈴木くんをターゲットに選んだ。

「あのなあ……。物事にはTPOってもんがあるだろうが。ひとの家の洗面所でプロポーズなんて普通するか!?」

「……ごめん。その点については俺も反省してる」

ごもっともなお説教に鈴木くんは神妙な顔で答えるのだった。

100パーセント悪気はないことはわかっているが、私だって洗面所でプロポーズされるなんて絶対に事前に察知できない。

それでなくともプロポーズなんて……!!ああ!!

どんな顔をして鈴木くんと話をしたら良いのかわからず、私は目を合わせないように早苗の背後に隠れた。

「あー…鈴木。とりあえずお前、今日は家に帰れ。それでまた明日来いよ。姉ちゃんがこの状態じゃ、もう誕生日会どころじゃねーだろ」

「そうだね……。今日は帰るよ」

樹の説得に頷くと鈴木くんが早苗の背後にまわりこんできて、私はまたカチンコチンに硬直してしまった。

「驚かせてごめんね、佐藤さん」

驚かせたことについてのみ言及して、鈴木くんはこの日は自分の住まいに帰って行ったのだった。