「ねえ、兄さん。あの二人、今頃大丈夫かしら?」

ボウルに入れた大量の餃子の餡をお玉でかき回しながら、早苗は焦れたように呟いた。

景気良く送り出したのはいいものの、普段の鈴木がアレなのでしっかりエスコートできているのか心配なのだろう。

残念ながらその心配は杞憂に終わることを俺は知っている。

鈴木は確かにどうしようもないゲーム好きの戦隊ヒーローオタクだが、そんじょそこらのオタクと一緒にしては困る。

「金魚を使ったアクアリウム展に連れてくって言ってたぞ。そのあと、ホテルでランチして、おやつにワッフル食いに行って、適当に街をぶらぶらして帰ってくるって」

「やだ……。思いっきりデートを満喫してるじゃないの、あの男……」

入念に計画された文句のつけどころのないデートプランを聞かされ、早苗はどっと疲れが押し寄せてきたようにガックリと肩を落とした。

きっと、余計な心配をしたことを後悔しているに違いない。

俺は早苗から渡されたボウルをダイニングテーブルに置くと、みれいゆで買ってきた100枚128円の餃子の皮を冷蔵庫から5パック取り出した。

早いところ今日のごちそうの準備を終えなければ、もたもたしていると姉ちゃんと鈴木の方が先に帰ってきてしまう。

なにせ何事もなければ、夕方の5時には帰宅する予定なのだ。二十歳を過ぎた男女が巡るには健全過ぎるデートコースである。