「椿~携帯鳴ってるよ?」
亜由に指摘され携帯の液晶画面に目をやると、液晶には“渉”の文字が光っていた。
私は急いでフォークを置いて騒がしい食堂から廊下に出ると、通話ボタンを押した。
「もう!!何してたのよ!!」
電話が来るのを待ってたくせに開口一番、文句を言ってしまうのは我ながら可愛げがない。
『悪かったよ!!ここんとこ残業続きで疲れてたんだって』
渉は焦ったように弁解するが、正面切って仕事を言い訳するとは賢くない。
「へー。残業ねえ?渉がそんなに仕事熱心だとは知らなかったわ」
私の記憶が正しければ九州に行く前は、サボっては鈴木くんに連れ戻されるっていうのが定番じゃなかったかしら?
『でも、残業したかいはあったぞ。再来週、仕事でそっちに行くことになった』
「ホントに!?」
驚きのあまりここが会社だということを忘れて叫び出しそうになる。
(本当に頑張ってたんだ……)
慣れない土地に転勤になって三カ月で出張まで任されるようになるなんてすごい。
そういえば渉ってその気になればできるタイプだっけ……。