佐伯はどこに向かうのかも教えず私を担いだまま、無言で街を歩いていく。

送別会の会場から攫われた私は、なすすべなく大人しく佐伯の身体にしがみついていた。

ふたりで抜け出したことが後ろめたくもあり、嬉しくもあって……どうしていいかわからなくなる。

たくさんの人が佐伯のために集まっていたのに、あいつは私を選んでくれた。

それが震えるほど嬉しくて、さらにぎゅうっと力を込めてワイシャツを握ってしまう。

密着している身体の至るところから佐伯の匂いがして頭がクラクラする。

夢心地でぼうっとしながら揺られていると、やがて小さな公園が見えてくる。

佐伯は空いているベンチに私を降ろすと、ふうっと息を吐いてネクタイを緩めた。

降ろされた今になって惜しいことをしたなと思ったのは、心の内側だけに留めておいてよかった。

……すぐにそんな甘っちょろいことを言えるような状況ではなくなったからである。