気が変わらないうちに手近なホテルに駆け込んで、しなやかな肢体をベッドに押し倒す。

渡辺が後から更なる自己嫌悪に苛まれることは容易く予想できたけれど、こうなってしまえばこちらだって止められない。

「俺のことだけ考えてろよ」

誰かの代わりに成り下がることを許容したのは自分のくせに、他の男を排除するよう強いるのは矛盾している。

それでも、渡辺は小さく頷いた。

「唇ばっか噛むんじゃねーよ。赤くなってるだろ」

「だって……」

恥じらうように、甘えるように身体を捩る姿は、ホントにあの渡辺なのかと疑いたくなる。

これ以上、我慢できないと柔らかい白い肌に口づけて、自分のものだという証を残していく。

……あいつの名前と同じ赤い花のようだった。

「椿……」

大事な過程をすっ飛ばして、棚から牡丹餅的な幸運を享受したことを、いつか悔やむ日がくることはわかっていた。

しかし、その時の俺は未来の自分がどんな目に遭おうとも、寒空の下凍えそうになっている渡辺を放っておくことができなかった。

たとえ、手痛いしっぺ返しを受けることになったとしても。

……渡辺と過ごしたこの夜を忘れることはないだろう。