「水くさいじゃない?転勤するならするってこっそり教えてくれても良かったのに」

ニコリと微笑みかけられ面喰っている佐伯の顔にも、私と同じように雨粒が当たる。

いままで散々無視していたのに、何事もなかったかのように平気で話しかけてくるんだから当然だ。

「九州に行っても頑張ってね。ほら、あっちって美人が多いって噂だし。頑張って仕事していれば物好きな美人に見初めてもらえるかもよ?」

本当に言いたいことは素直に口にすることが出来ないのに、憎まれ口だけはすらすらと言えるんだから不思議だ。

私なりのはなむけの言葉のつもりだった。

同期として、喧嘩仲間として、それが私にできる唯一のことだったのに……佐伯はいつものように笑ってはくれなかった。

それどころか、別人のように怖い顔をして、私の手を握るのだった。

「頼むから……勝手に終わらせようとするな」

佐伯は振り絞るようにそう言うと私の手を己の頬に寄せて、熱い視線を投げ掛けてくる。

まだ、終わっていないのだと分からせるように、ひたすら請い願うような視線に心臓がビクンと跳ね上がる。