「今日は佐伯と一緒じゃないんだ?」

私は鈴木くんの背後にあいつが隠れていやしないかと辺りを見回した。

「渉は上司と一緒に外回りだよ」

「別々なんて珍しいのね」

同じ営業部で同期ということもあって、鈴木くんと佐伯はしょっちゅうペアで行動している。佐伯の姿が見当たらないことの方が珍しい。

「渉は引き継ぎやら挨拶周りあるからね。ほら、あいつ来月から九州に行くだろ?」

「そうなの?出張?営業部は大変ね」

亜由に同意を求めるように視線を送ればうんうんと頷いてくれた。

その瞬間、鈴木くんの表情が明らかに変わった。

「もしかして……二人ともまだ知らないの?」

(まだ、知らない……?)

私達の知らない間に佐伯に何かあったとでも言うのかと不安が募る。

鈴木くんは失言を悔やんでいる様子だったが、これ以上は黙っていられないことを悟ったのか、重々しく口を開いた。

「……渉のやつ、九州支店に転勤になるんだ」