「鈴木くん?どうしたの?」

俺は食器を洗っている佐藤さんを背後から抱き寄せると、うなじに顔を寄せた。

「何でもない。ちょっと昔のことを思い出して」

少し遠回りはしたけれど、こうして傍にいられる幸運に感謝しているのだ。

「おかしな人ね」

佐藤さんはクスクスと笑いながら、皿洗いを続けた。

……背中ばかり追いかけていた佐藤さんが振り返って微笑んでくれるのは、あの日からもう少し先の話になる。


例えば。


あの時、レストランにやってきたのが本物の佐藤さんだったら。

スーパーでひろむくんを助けることもなかったかもしれない。

戦隊ヒーローマニアだってこともばれなかったかもしれない。

眼鏡を掛けたダサいジャージ姿でこの家にいることもなかったかもしれない。

ああ、でも。

(変わらないな、きっと)

……どんな出会い方をしたとしても、俺は彼女にずっと恋をしている。