「きゃっ!!」

プップッーと激しく鳴った車のクラクションに反応するように身を引くと、佐伯は私の肩に手を掛けよろめく身体を己の元に引き寄せた。

「大丈夫か?」

「あ、ありがと……」

照れ臭さを隠すように俯きながら、幾筋か零れ落ちた髪を耳にかける。

(び、びっくりした……!!)

車に轢かれそうになったことよりも佐伯の力が思いの外強かったことにうろたえている。

一見するとひょろっとしているくせに私一人の身体など難なく支えてしまえることが、なんとなく悔しく思えた。

佐伯は私の心中など知ってか知らずか、車が走り去った後も肩から手を離さず、それどころか無遠慮にジイッとこちらの顔を見つめてきた。

「あのさあ……」

メイクでも崩れているのかと首をひねっていると、佐伯がおもむろに親指で私の唇の端をなぞり始めた。

「な、なに!?」

公衆の面前で急に始まった艶めいた展開にカチンコチンに身構える。

「……元の色に戻したんだな、そのルージュ」

……佐伯はこれまで見たことがないほど優しそうな目で、そして楽しげに私をからかうのであった。