「お?」

「なによ……」

仕事が終わり私服に着替えて約束通り1階で待っていると、佐伯が感心したように目を見張りながら現れた。

「逃げずに待ってるなんて、偉いな」

よしよしとまるで子供のお遣いを褒めるように頭を撫でてくる佐伯の態度に腹を立て、ぷうっと頬を膨らませる。

「おいしいお店に連れてってくれるって言ったのはそっちの方なんだからね?」

「まあ、期待しとけよ」

ハードルを上げてみたはものの、佐伯に慌てる様子は見られない。どこまでも余裕たっぷりで、私の隣に陣取るのであった。

「今日はどこに行くの?」

「駅裏のイタリアンの店。パスタが上手いんだと」

「パスタ?」

それは聞き捨てならない。私は何を隠そう無類のパスタ好きなのだ。

膨れていたのもほんの束の間。パスタと聞いてすっかり機嫌が直った私を見て、佐伯がクックッと押し殺したように笑う。

「渡辺はいつもパスタランチばっかり食ってるもんな」

……この男、どこまで目ざといの?