「貸せよ。手伝ってやるから」

フラフラ運んでいるのを見るに見かねたのか、ほらっと両手を上げダンボールを寄越すようにすすめられる。

「い、いいわよ……!!ひとりで運べるし」

私は先ほどまでヒーヒー言っていたことも忘れて、ムキになって言い返す。

素直に甘えてしまえばいいのに、相手が佐伯だと途端にそんな気になれなくなる。

せっかくの好意を拒絶するつっけんどんな私の態度を佐伯がお気に召すはずがない。

「そうかよ。勝手にしろ」

佐伯は呆れたようにそう言うと、私を置いて先にスタスタとエレベーターに乗り込んでしまった。

(あんなキスするからじゃない……)

路地裏でひっそりと交わされたキスの甘さを忘れていないのは私だけ?

どんな顔であいつと接したらいいのかこの頃よく分からなくなる。

(でも、さっきの態度はさすがに酷い……かも……)

我ながら先ほどの態度はなかったと、ひとりになったところで反省する。

これが亜由とか、他の女性社員なら、喜んで手を貸してもらうんだろうな。

私だって、声を掛けてきたのが佐伯以外の男性社員なら、意地を張らずに済んだのに……。