「おかえり、椿。遅かったね」

総務部に戻ると隣のデスクに座っている亜由が、キーボードを打つ手を止めて尋ねてきた。

「戻る途中で佐伯に捕まったのよ」

……とんでもない頼みごとをされてしまったものだ。

こんなことならあいつの横っ面をはたいてやれば良かったと後悔する。

「懐かしいね!!元気だった?」

そんな私の心の内など露知らず、亜由は懐かしそうにわあっと声を上げた。

「うるさいくらいに元気だったわよ。誰でも良いから総務部の”佐藤”さんを紹介して欲しいんですって」

「えー?何それ」

亜由はケラケラと笑って、ノートパソコンの電源を落とした。

「亜由もおひとつどう?」

総務部の”佐藤”の一人である亜由にもお誘いをかけてみれば、身体の前で大きなバッテン印を作られる。

「私は結構です。他の佐藤を当たってください」

「今日も真っ直ぐ家に帰るの?」

「うん。明日は末っ子のお弁当の日だから」

いそいそと帰り支度をする亜由を見て、7人弟妹の長女も大変だなと思ったのだった。