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「いや~。お見事、お見事。さっすが鈴木だねー」
携帯ゲーム機の小さな画面から目を離さずに樹がゲラゲラと下品に笑う。
「絶対からかっているでしょ?樹くん」
鈴木くんも同じくゲーム機にかじりつき、物凄い速さで指を動かしている。
「よ!!マダムキラー!!」
樹がからかうように掛け声を出すと、さすがの鈴木くんもむすっと不機嫌になり、ボタンの連打を始めた。
「おかげさまで一生分の愛想使い果たしたよ」
そう言った直後、樹がぎゃーっと悲痛な叫び声を上げた。
どうやら、勝負は鬼神のごとくゲーム機を操る鈴木くんに軍配が上がったようだ。
「樹ってば鈴木くんをからかうのはもうやめなさい。ほら、負けたなら洗濯物畳んで?」
あれほど頭を悩ませていたご近所の噂は、鈴木くんのイケメンぶりが広がると同時にパタリと止んだのだった。
鈴木くん自ら広告塔となって佐藤家のイメージアップのために、奥様方に気さくに話しかけてくれたおかげである。
「佐藤さーん、タオルの予備ってどこに片付けるんだっけ?」
「はーい!!今、行きまーす」
いつもの日常が戻ってきた我が家には鈴木くんのジャージ姿があった。
しかし、全く同じというわけではない。
(“思い出す”かあ……)
私は少しずつ思い出として取ってあった大事な記憶達を呼び起こそうとしていた。