「どうして、俺に何も言わなかったの?」

ひろむを子供部屋に寝かせリビングに戻ると、鈴木くんが仁王立ちで待っていた。

「全部、聞いてたの?」

「電信柱の影からこっそりね。ただの世間話にしては様子がおかしかったから。迂闊だった。俺のせいで佐藤さんに悪評が立つなんて……」

歯噛みして悔しがる鈴木くんを見ていると、居たたまれなくなる。

「ごめんなさい……」

「なんで謝るの?」

「だって……」

自分で何とかしようとして突き放したというのに、結局また頼っている。

甘えて、頼って、寄りかかって。最後には呆れてどこかに行ってしまうんじゃないかってこの期に及んでまだ怯えている。

そんな私の気持ちを察したのか鈴木くんが控えめな、けれど心の籠った抱擁をくれる。

「俺のことも思い出してよ。こんな時に何も出来ないなら、一緒にいる意味がないでしょ?」

「うん……」

……私には何が出来るだろう。

優しい彼の腕の中で身体を委ねながらひたすら考えてみても答えは見つからなかったのだった。