むぎゅっと口元を掌で覆われ、ぷすっと息の抜けた音が響いた。

「佐藤さん」

頭上から聞こえた声にホッとするというよりは驚いてしまう。

どこからともなく現れ目の前に立ちはだかったのは、間違いなく……。

「す……、鈴木くん……?」

颯爽と登場した鈴木くんは、目が合うと困ったように微笑んだ。

……なんて最悪なタイミングなんだろう。

「仕事は……?」

ダークグレーのスーツ姿は明らかに会社帰りである。

「早退してきた。俺も心配だったし……。あ、代わるよ」

鈴木くんはそう言うと慣れた手つきでひろむを抱き上げ、その背中をポンポンと優しく叩いたのだった。

「ありがと……」

私は情けないことに少し泣きそうになった。

町内会長の奥様への怒りとか、好奇な目に晒された不安とか、今まで鈴木くんに言えなかったことを全て吐き出してしまいたくなった。

(本当のヒーローみたいね……)

私にとってはセカイジャーよりは頼りがいのあるヒーローだ。