「ぞーすい……」

うつらうつらとしながらも、はっきりと食の好みを伝えてくるとはさすがは佐藤家の子である。

身体を上下に揺らしながら背中をポンポンと叩いて歩いていると、次第に幼い弟の身体から力が抜けぐにゃっと手足があらぬ方向へ曲がっていく。

(うわ……寝ちゃったか……)

家に着く前に寝られると非常に厄介なのだが今日は仕方ない。

私は覚悟を決めるとその場に止まり、バックを路上に置いた。抱っこからおんぶに体勢を変え、ひろむを家まで連れて帰るためだ。

(う、重い……)

おんぶの体勢になって、腰に感じるのは幼児一人分とは思えぬ重量である。

……最近、鈴木くんに頼り切っておんぶしてなかったからか。

久方振りのおんぶは精神的にも肉体的にも辛いものがあった。

それでも弟を起こさないようにゆっくり慎重に歩みを進めていると、普段は出歩かない時間帯ゆえに思わぬ人物と遭遇してしまった。

「あら、佐藤さん。こんな時間に……珍しいわね」

「町内会長の奥さん……」

……神様はどこまで意地悪なのだろう。

もしかしたら、最悪のタイミングで最悪の人に絡まれてしまったのかもしれない。