「バッチリだったよ。さすが早苗ちゃんだね。来週のテストもこの調子でやれば問題ないよ」

「そう?じゃあ、次こっちね」

早苗ちゃんはカバンから新たに別のノートを取り出して、俺に渡すとグラスにストローを差してずずっとジュースを啜った。

俺はノートに書かれた英文の翻訳に違和感を感じた箇所にマーカーをつけながら、それとなく早苗ちゃんに尋ねた。

「と、ところで……さ、佐藤さんは元気かなあ?」

「別に」

「そ、そっか……」

早苗ちゃんは英単語帳のページを付属の赤いシートで隠して、暗記を開始していた。時折、英和辞典を開いては英単語帳に何かを書き足していく。

(……”別に”ってどういう意味だろう)

俺は平静を装うためにすっかり温くなったコーヒーを一口飲んだ。

資料室での一件以来は我ながら冷静さを欠いていた。それが彼女を怯えさせる結果になってしまったことを何より歯がゆく思っている。