(気のせいかしら?)

資料室に用がある人物なんてそうそういやしない。

たまたま本が傾いただけだと結論付け、気を取り直して背表紙の文字を目で追う。

すると、突如背後から忍び寄ってきた影に口元を手で塞がれた。

「んっ―――!?」

(やだやだやだ!!何なのよ!?)

私は拘束から逃れようと手足をばたつかせ、もがきにもがいたが、腰に回された腕はビクともしなかった。捕まえた人物は抵抗を続ける私の様子に驚くと、慌てて言った。

「佐藤さん、落ち着いて!!俺だよ!!鈴木だよ!!」

(す、鈴木くん……?)

耳元で淡く聞こえる優しい声は間違いなく彼のもので、私は暴れるのをやめ、代わりに頬を膨らませながら、性質の悪い悪戯を仕掛けた鈴木くんを恨みがましく見上げた。

「ごめんね。驚かせちゃった?」

「当たり前でしょう!!」

人気のない資料室で誰かに手足の自由を奪われて、驚かないはずがない。

(ああ、でも良かった。相手が鈴木くんで……)

私は怒り収めると、今度はホッと胸を撫で下ろした。身の危険が去ると、久し振りに顔を合わせた鈴木くんのことが気になり始める。