椿は電話の受話器を置くと、申し訳なそうに私に言った。

「亜由―、悪いんだけど私の代わりに資料室に行ってきてくれない?今、手が離せなくて……」

椿のデスクの傍らには未処理の書類がうず高く積まれている。

ここ最近、椿は産休を取ることになった先輩の引継ぎをしながら、己の業務までこなすという八面六臂の活躍を見せていた。忙しそうに働く同僚の様子を見て、大変だなあとしみじみ同情してしまう。

「いいよ。こっちは一息ついたしね」

「はい、これリストね」

「じゃあ、行ってくる」

私は椿からもらったメモを片手に資料室へと向かった。

(結構、あるなー)

渡されたメモを道中で確認すると、羅列された資料名は10冊ほど。

それも、誰が必要としているのか見当もつかないほど年代も古く、今では誰も使用していない旧式のパソコンの取扱説明書から、ボツになった新製品開発プロジェクトの会計報告書までとジャンルも見事にバラバラである。

紙の資料が廃れ電子ネットワークが完備された昨今では、紙の資料は過去の遺物としてぞんざいな扱いを受けている。

電子化される以前の古い書類は全部まとめて倉庫に押し込められているわけだが、その管理は総務部に一任されていた。

つまり、総務部の人間以外が倉庫に立ち入ったところで、資料の探索は非常に困難だということである。

大概の人は自力で探すことを諦め、総務部に閲覧したい資料を探してもらうよう依頼することになるのだった。