「きーめた。今日はひろむの苦手なグリンピース料理にしまーす!!」

「えー!!やだぁ……」

「残さず食べるのよ?」

今日は鈴木くんが出張だから家には来ない。つまり、助けてくれる大人はいないのだが、ひろむはそのことをまだ知らない。

さあ、どれほど泣きべそをかいてグリンピースを完食するか見物である。

(ふふ、、楽しみっ)

こっそりほくそ笑んでいるとお迎え帰りのママさん集団が前方から歩いてくるのが見えた。同じ園服を着ている子供を連れたもの同士、名前が分からなくても挨拶を交わすのが礼儀であろう。

「こんにちわー」

ひろむのお手本になるように愛想よく元気に言ったのだが、相手の反応は微妙なところだった。

ママさん集団は私を露骨に避けひそひそと互いに声を潜めて何事かを囁き合うと、すれ違いざまにこう言ったのだ。

「ほら……あの人じゃない……?」

悪意のある態度に、突如既視感に襲われる。

(なんだか……嫌な感じだわ……)

……ゴミ捨ての時と同じだ。ひそひそと話をするくせに誰も私に何も言わないのだ。

訳の分からない不安が胸に広がっていく。

「お姉ちゃーん……」

立ち止まったまま動こうとしない私の手を、ひろむがぐいぐいと引っ張る。心配そうに揺れている瞳を見て、しっかりしなきゃと自分を奮い立たせ笑顔で言う。

「帰ろうか、ひろむ」