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「お姉ちゃーん!!」

「ひろむ!!走らないの!!また、転ぶわよ!!」

「へへーんだ!!」

ひろむは幼稚園の昇降口を一気に駆け抜けると、私の腰目がけて見事なタックルを決めた。

うっと後ろに倒れそうになって、必死に足を踏ん張る。このタックルに耐えられなくなる日もそう遠くないだろう。

私はバッグの持ち手を肩に掛け直すとひろむを腰から引っぺがしてお見送りの先生の方を見るように促した。

「はい、先生にさようならは?」

「せんせーさよーならー」

いつまでも手を振り続けるひろむに苦笑いする先生方に会釈をして、小さな弟の手を握って家路を急ぐ。

「今日の夕飯何が良い?」

「オムライス!!たまねぎ抜き!!」

「玉ねぎ抜きはダメよ。好き嫌いはいけませんっていつも言っているでしょう?」

「じゃあ、鈴木のお兄ちゃんにあげるー」

「……それはもっとダメ!!」

ぶうっと顔を膨らませて拗ね始めたひろむを見て、これは常習犯だなと確信する。

さては、私の知らない間に鈴木くんのお皿に苦手な野菜を移していたな……?

っていうか、鈴木くんも幼稚園児に良いように使われ過ぎである。

今後は監視の目を厳しくしないと、ちっとも苦手な野菜が減らないではないか。