「うん、分かってるよ」
シンクに置いたグラスがコトンと鳴った。昼間とは打って変わってひと気のなくなったリビングに妙に響いた。
「麦茶、ご馳走様。今日は帰るね」
「え?」
鈴木くんはそう言うなりポケットに携帯と財布を入れて、スタスタと廊下を歩いて行った。
「ホントに帰るの?」
「うん。やっぱり、泊まっていくのはまずいでしょ?」
鈴木くんが言っていることはもっともだけれど、私はなんだか泣きそうになった。
さきほどの台詞を慌てて否定した私に対して怒っているんじゃないかって不安になる。
「じゃあ、帰るね」
……いつもと同じお別れのはずなのに急に寂しさに襲われる。
「待って、鈴木くん!!」
私はサンダルを引っ掛け玄関を飛び出し、門を開けて歩道に出ようとしていた鈴木くんの腕を引いた。