「俺は待っているんだよ。佐藤さんが思いだしてくれるのをね」

鈴木はウイスキーのグラスを揺らすと、グイッと喉を鳴らして飲み干した。

……鈴木と姉ちゃんの間には俺達が立ち入ることの出来ないふたりだけの領域がある。

鈴木には姉ちゃんにしか見せない“男”の顔があって、姉ちゃんには鈴木にしか見せない“女”の顔がある。

その一端を見せつけられた気がして、少女のように頬が赤くなるのが分かった。

普段のボロ雑巾のような格好ではなく、気障なセリフが似合うビシッと決まったスーツ姿なのがまたいけなかった。

コホンと気を取り直して咳払いをする。

「何を待っているのか知らないけど、姉ちゃんを待ってたら、ジジババになっても結婚できないぜ、お前ら」

「そっちの方が問題だよね……」

鈴木がうーんと残念そうに唸りながらカウンターに沈んでいく。

「まあ、気長に待てよ」

頭を抱えて悩む鈴木に呆れながらも、俺は未来の義兄の為にウイスキーのおかわりを作り始めるのだった。