「お待たせ致しました。まかないパスタとグリーンサラダです」

出来立てのパスタとウイスキーのグラスをカウンターに置くと、鈴木は直ぐにフォークを取って腹ぺこの胃に食事を収め始める。

このバーで提供している食事はオーナーの友人でもあるイタリア修行帰りのシェフが腕を振るっているおかげで美味いと評判だ。

それでも鈴木は我が家で食べる姉ちゃんの家庭料理の方が良いと言う。

(オーナーが聞いたら怒りそうだよな……)

流水のごとく静かに怒るオーナーを想像しなからカウンターに立ってリキュールのボトルを拭いていると、ふと鈴木と目が合った。

「なにか?」

「いやあ……。樹くんの顔を見ながら食べると、佐藤さんと一緒にいる気持ちになれそうだから……」

デヘヘと照れながら頭を掻いた鈴木を見た瞬間、怒りのあまりこめかみがヒクヒクと動いた。

(キモい……!!マジでキモすぎる!!)

姉ちゃんのことが好きだとは思っていたが、ここまで好きだと超キモイ!!

弟の顔をおかずにして飯を食うなよ!!

「そんなに好きならさっさと結婚でもなんでもしちまえよ」

法的に自分の物にすれば独占欲もおさまるのではと期待して、やけくそ気味に言い放つ。

どうせ、うちの連中は鈴木のことを気に入っているから反対しない。むしろ大歓迎だろう。

間接的変態行為に及ぶくらいなら、その方がいい。よっぽどいい。

うんうんと頷きながら次のボトルを拭こうと手を伸ばす俺に、鈴木はふっと仄かに笑みを浮かべながら言った。