「な、なに!?」

「色変えた?」

カウンター越しに伸びてきた佐伯の指が、顎を掬い上げ親指で唇を撫でる。

何気ない仕草にどうしようもないほどの親密さを感じて戸惑う。

佐伯の目が獲物を見つけたように鋭く光った。

……私はその目が苦手だった。

「あ、あんたには関係ないでしょう!?」

手を振り払うために身を捩ると、その勢いで書類がバラバラと床に散らばってしまった。

(なんて目聡い男なの!?)

まあ、目聡くなければ私が元カレに振られて落ち込んでいたことにも気づかなかっただろうが……。

忘れようとしているのにちっとも上手くいかないことにイライラしながら、書類を拾い集める。

「ふーん」

佐伯はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべると、シンデレラのように床に這いつくばっている私にこう言った。

「今夜、飯でも行くか?」