桜の花が満開の春。

私は晴れて高校生となった。


中学ではできなかったメイクもナチュラルに決めて
スカートだって膝下から上に。
髪の毛のアレンジだって忘れていない。

「やっと.....やっと夢に見てた高校生活だぁー!」

私の両親は海外にいて、単身赴任中。

ピーンポーン

私一人の家にチャイムが鳴り響く。

「おっはよー、月葉!」

「はよ、那奈」

私の親友の内川那奈。小学校からの仲なのだ。
那奈は元気で明るくて私の憧れの存在。

そんな彼女もバッチリメイクしていて、スカートも結構上。
髪型も元気なポニーテールだ。

「那奈、めっちゃ決めてるね。似合ってるよ!」

「えへへー、てかてか!やっぱり月葉って綺麗だし、可愛いなぁ♪」

とか言って私の頬を手のひらでグルグルする。

「いきなりなーに?綺麗じゃないし、可愛くもないよー」

「ううん!スタイルだっていいしさぁ、髪の毛もサラサラでー。
羨ましいよぉ....いい匂いもするよ!香水とか付けてる??」

「つけないよー、持ってないし(笑)」

「えー!すごいいい匂い!優しくて甘い香りー♪」

なーんて呑気なことしているうちに時間はどんどん過ぎていき、、

「うわっ!もうこんな時間!?間に合うかな....」

「平気だよ、ここから学校近いし。早くいけば間に合うよ。」

ここから10分くらい歩いたところに私たちがこれから過ごす高校。
奏明高校がある。
奏明高校は運動部に力が入っていて、野球部、サッカー部、バスケ部が全国大会で優勝を果たしている。
奏明の受験に合格したときここに入学できたのは奇跡かもしれないと那奈と散々騒いでいた。

「あっ、着いた!」

奏明高校はこの県で一番古い高校。
しかしその割りには大きく、頑丈でとても綺麗にされている。

「クラス一緒だといいね!」

なんてよくありがちな会話をしながらドキドキしてクラス表を見た。

「......月葉ぁぁ、やだよぉ、、」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ!休み時間とか那奈が仲がいい子ができるまで顔出しに行ったりしてあげるから!ね?」

私たちは見事にクラスが別れてしまい、私がCクラス。那奈はEクラス。
那奈はガックリと肩を落として半泣きになっていた。

「ほーらっ、すぐいい友達できるよ!」

那奈は、うん...と言って私から離れクラスに入って行った。

よし、私も頑張らなきゃ!

気合いを入れて音をたてて教室に入った。

(まず、座席表か。私はーっと、矢城はどこだー。
あ、あった。後ろから二番目か、しかも窓側。ラッキー♪)

静かに席に着いた私はすることもなくぼんやりと空を見つめていた。

すると後ろからカタッと音がした。
振り向くと可愛らしいミディアムショートの女の子がいた。

彼女は私を見てニコッと可愛らしい笑顔を見せた。
私も会釈をしてまたぼんやりとする。しかし、可愛いなぁあの子。

しばらくすると担任が入ってきて自己紹介が始まった。

名前と趣味や特技、ひとことを言って終わり。

刻々と番が迫ってくる。

「んじゃ、次矢城なー。」

「はい、矢城月葉と言います!趣味はお菓子作り。特技はー...ないかな?
一年間よろしくです!」

はぁ、やっぱ初めての人の前で自己紹介って緊張する...。
上手くできてたかなー。

「はいっ、はじめまして。山野桜です!趣味は音楽を聴くことで、特技は、空手です。仲良くしてください!」

桜って言うのか。.....合ってるなぁ。可愛いし、ほんわかしてて癒し系だね。

そんなこと考えていると肩をちょんっと叩かれた。

「矢城さん、だよね?」

「う、うん。そうだけど」

やばい、天使に話しかけられてる。。

「私、桜.....ってさっき言ったから知ってるか(笑)
私この学校に知り合いいなくてさ、あのー...な、仲良くしてもらえないかな!」

「もちろん、大歓迎だよ。よろしくね、桜」

「ほんと!よかった!よろしく、月葉」

初めてできた友達。それが桜だった。

桜は気さくで可愛くて、すんごくいい子!
憧れちゃうなー。

―放課後ー

「月葉にこれ、あげる!」

「あ、これ!期間限定のアメだー!」

「友達になってくれたお礼だよ♪じゃ、また明日ねー!」

「うん、ありがとね!ばいばい!気を付けて」

桜と別れたあと那奈のクラスに向かった。

「あははっ、わかるー!今度行かない?」

「いきたーい!」

那奈の私の居場所はどうやらなくなってしまったようだ。
別にいっか。桜もいるし。

桜からもらったアメをぱくっと口に運んだ。

「矢城、まだ帰らねーの?」

「あ、まっちゃん。もう帰るよー。」

「あれ?内川は?一緒じゃねーの?」

「那奈はー、他の子と帰るみたい(笑)」

まっちゃんとは、松田陽汰のこと。
クラスが同じで野球が大好きな爽やかなよくいる男子。

「しょーがねーから帰ってやろう」

「まっちゃんも帰る人がいないんじゃん」

まっちゃんは幼稚園からの付き合いで小学校、中学、高校まで一緒。
しかし、クラスが一緒になったのはこれが初めてだった。
でも、ずっと違うクラスだったがよく私のクラスに入りたびっててよく話したりもした。

私はなぜか、まっちゃんと仲いい人と同じクラスになるみたいで(笑)

「なんか矢城って中学ん時と雰囲気が変わったよなー」

「可愛くなったでしょ?(笑)」

「自惚れんなよ、このやろー!」

頭にチョップをお見舞いされた。

手加減してくれてあまり痛くはなかった。

「メイクしてるからじゃない?」

「え、メイクしてたん?」

「あれ?わかんない?してるよー。
まあ、シンプルにだけどね(笑)だからそんなにわかんないのかも」

なるほどなーと納得するまっちゃん
そして私をガン見する

「え?な、なに??」

結構テンパる私。

動揺してることに気づいたのか

「ぷっ.....あはははっ!顔赤い(笑)
ん、いや可愛いなって」

「そ、そそそそういうのは彼女にいいなよ!」

「....うん、そうだな」

そのときまっちゃんの顔が悲しそうに笑ったような気がした。

「まっちゃん...?そうだ!なんか食べにいかない?」

「は?いきなりどうした?」

友達が困ったり泣いたりしてるのを見て見ぬふりをするのはキライなんだよね、私。
元気にして笑ってもらうのが私の役目みたいな感じだな

「ここら辺に新しくクレープ屋ができたらしいよ?まっちゃん好きでしょ、クレープ!」

「...おう!矢城の奢りなー」

しょうがないなーといいながらクレープ屋に私たちは向かった。

そこでなぜか私の恋バナになった。

「じゃあ矢城の好きな人はー、直登ってわけか!」

「う、うるさいな!別に好きとかそういうんじゃ.....」

と文句をいう私をよそにまっちゃんはニヤニヤしながらクレープを口に運んだ。

直登というのは中学校の同級生。

いつも明るくてみんなから好かれていた。

私は直登と仲が良くてよく遊んだりもしていた。

勉強だって教えてもらったりした。直登が好きなバスケも。

私がここを受けたのは直登が奏明高校に推薦されていたから。

クラスは違ってしまったけれど家もまあまあ近いからなんの問題もない。

気づけば直登が『男』に見えてきて気づいたら意識しまくっていた。
というのが今の現状。

私も少し口角をあげたまま残りわずかなクレープを口に運んだ。


「今日はありがとなー。」

「どういたしました(笑)じゃあ、また明日ね」

そう行ってクルリと背中を向け歩き出したはずだが、腕を掴まれ動けない。

「.....まっちゃん?」

「え?あ、あぁ。ごめん。直登とうまく行くといいな」

そう柔らかく微笑んでその場を去ってしまった。

なんなんだろ。やっぱり彼女となにかあったんだろうな。

上手くいくといいけど...

不意に空を見上げたら茜色に染まっていた。

帰らなくちゃそう思って再び足を進めた。

下を向いて白線を辿っていく。

すると前に人がいてぶつかりそうになった。

「わっ、ご、ごめんなさい!」

私は慌ててダイナミックに謝った。

顔を上げると、直登だった。

「白線見ながら歩いてると危ないから気を付けろよ、幼稚園児ー♪」

「ん、んなっ!立派な高校生ですよーだっ!」

少し顔が火照っていることが自分でわかった。

だから余計に恥ずかしくなった。

「ははっ、そうだな」

「もうっ、ってあれ?方向こっち?帰らないの?」

直登の家は私の家の前にある。

だから一緒の方向なのに直登の体は私と反対を向いている。

「んー、ちょっと用があって。」

とても幸せそうに微笑む直登に違和感を感じた。

「彼女、とか....?」

一番聞きたくないことを聞いてしまったことに後悔した。

「ば、バレた?」

恥ずかしそうにはにかむ君。

その瞬間、胸がモヤモヤしてジリジリする複雑な気持ちになった。

きっと私ヤキモチ妬いているんだろうな。

こんな性格悪かったっけ、いつから醜い感情が生まれたんだろ。

汚い感情。どっか行け雑念。こんな感情なんていらない。

「そっかー!彼女できたんだね!おめでとう!」

これが私の精一杯の演技だった。

「月葉?」

「幸せにね!彼女待たせてるんでしょ?じゃあ、早くいかないと!」

直登の言葉を遮りどんどん喋る。

そうしないと、あの感情が溢れて自分をコントロールできなくなりそうで。

「で、でもお前なんか....

「いいから行けってば!」

ぐいっと背中を押す。

「.....あぁ。じゃーな」

「じゃーなっ!!!」

半ばヤケクソになって直登に言う。

直登はそのあと私を一回見て、走って行ってしまった。

「.....っ」

頬に暖かいものが伝った。

「な、なにこれっ...なんでっ...泣いてんだろ。わたしっ....」

泣いてて上手く喋れない。

誰も、いないよね。

人通りのない道で私は声を押し殺して泣いた。

誰もいなくて好都合。しかしそこは誰も心配してくれる人などいないということ。そう考えると余計泣けてきた。

止まれ、止まれ、止まれ。

そう思っているのに涙は流れてくるばかり。

「カッコ悪すぎっ...これじゃ....カッコつけた意味っ...ないじゃん。」

直登は私のことただの友達としてしか思ってない。

ただそれだけのこと。

なのになぜだろう。なんでこんなに涙が止まらないんだろう。

止めどなく流れる涙。なんの意味もない涙。行き場のない悲しみ。

恋ってこんなに難しかったんだっけ?こんな苦しかったっけ?

もう、疲れた。家に帰って早く寝よう。

歩いていても涙はいっこうに止まらない。

ここの横断歩道を渡れば人はあまり通らないところに出る。

もう少しのところで

「あれ、矢城?帰ったんじゃなかったのか?」

タイミングが悪すぎる。

それはまっちゃんだった。なんでこんなときに...

「そういえば、さっき直登を見かけたぞー?」

ニヤニヤしながらそう言ってきた。

「へ、へー。そうなんだ」

ぎこちない返事しかできない私。

私は泣いていたことがバレないように髪の毛で顔を隠し、斜め下を向いた。

そのぎこちなさに気づいたのか、まっちゃんは私の顔を覗こうとした。

慌てて私は後ろを向いた。

「ご、ごめんっ、今化粧してなくてあんまり見られたくないんだよね....」

「.....ふーん」

何かを探るように私をジーっとみている。

「も、もう行くねっ!」

無理だ、まっちゃんにこんな姿は見せたくない。

まっちゃんにとって私は相談できる相手、遊んでくれる相手。

こんな弱いところをまっちゃんに見せたらきっと相談してくれなくなる。

だからまっちゃんには弱いところを見せたくない。

「待てよ、なに隠してんだよ」

「かっ、隠してなんかっ....」

隠してなんかない。そう言おうと思ってたのに。