もう陽汰の心には私はいないみたいね。
あれからずーっと連絡してくれなかったもんね。
きっと好きな子ができたんだろうね。
そっかそっか。いいよ。もう。
久々の教室は前と変わらず騒がしい。
そして前と変わらず音を立てて入ってくる陽汰。
そして私と目が合い驚いて目を大きくした。
「いつ退院したんだよ!?」
能天気に話しかけてくる陽汰。
桜が睨んでいることにも気がついていない。
「一昨日だよ」
ニッコリ笑って返す。
「連絡してくれればよかったのに」
目をそらしてそう言った。ほんとわかりやすいね。
「忙しいかなって思って」
そっかそっかと言って陽汰は席に着いた。
「なんなの....最低すぎるよ....」
桜が泣きそうになりながらそう言う。
「なんで桜が泣くの(笑)平気だよ。ほらチャイム鳴るよ」
そういうとコクンと頷き私の机から自分の机に戻って行った。
前を向くと陽汰と目が合った
いつもの私ならきっと口パクでばーか。なんてふざけているだろう。
でももう違う。ニコッと笑ってすぐ視線をそらす。
SHRが終わると陽汰がこっちに来た。
なにも言わないで私をじっと見てくる。
「どうしたの?松田くん」
そう言うと陽汰は今度は悲しそうに目を大きくした。
「ま、松田くん....?」
恐る恐る呼び方が違くないかと言わんばかりに聞いてきた。
「うん?なんか大丈夫?」
わざとらしく訊ねる。
ごめんね。
「月葉こそ、平気か....?」
「何言ってるの?平気だから退院したんだよ?」
ごめん。
「そ、そうだよな...」
「次、移動教室だよ、早く行かないと遅れちゃう」
ごめんなさい。
こんな冷たくするのはよくないことはわかってる。
でもそうしないと平常心が保てなくなるから。
ひどいやり方なのはわかってるよ、ごめんね。
傷つけてばかりでごめん。
「月葉、そんな思い詰めた顔しないで....」
桜が悲しそうに呟いた。
「うん、ごめん.....」
私が悪いのはわかってる。
でも、連絡くらいしてほしかった。
毎日じゃなくていいからお見舞いに来てほしかった。
退院日の日に迎えに来てほしかった。
好きな子ができたなら言ってほしかった。
違う子とデートするならバレないようにしてほしかった。
こんな酷いわがままを聞いてもらえるとは思ってない。
これはただの私の理想を想い描いているだけ。
だめだよね、こんなんじゃ。
私がこんな弱いから、私が病気だから、だからきっと嫌になったんだよね。
私がいつの間にか陽汰を追い詰めていたのかもしれない。
「なんか、哀しいな。」
「......そうだよね」
心の奥が狭く感じて息苦しい。
まるで海の奥底。そう深海にいるような感覚。
私は今そこにいるんだ。
昼休みになり私は中庭に出た。
するとそこには朔と陽汰の姿があった。
「お前さ、なんで矢城に謝らねーの?」
「だって俺、なんもしてねーし。」
なんも、してない.....?
「俺、言ったろ?あの時矢城を見たって。退院日だったの本当に知らなかっ
たのかよ。おい、聞いてんのか?」
「.....聞いてるよ。連絡とれなかったんだよ」
「違う。とれなかったんじゃない。とらなかったんだ。疚しいことがあった
から。バレたら嫌だったから。自分が一番よくわかってんだろ?」
「.....なんなんだよ、朔埜まで月葉の味方か!?」
「味方とかそういうのじゃないだろ。あれはお前が悪い。矢城がいるのに少
しモテている女子から遊びに誘われて、しかも一回だけじゃなく三回も。」
「....っ」
そうだったんだ。三回もあの子と会ってたんだね。
まあ可愛かったもんね、あの子。
そりゃ遠くにいる私より近くにいるあの子のほうが好きになるよね。
「もう、矢城は好きじゃないのか?」
.........。
「....知らねぇよ。あんなやつ。」
っ.......そっかそっか。
「好きじゃねぇよ!最初っから!!!」
私は足を踏み出した。
「お、おまっ....」
朔が私を見て驚いた。
「!?...」
陽汰は朔より驚いて目を下に向けた。
うん、やっぱり。
「やっぱり病気の彼女を持つのは嫌だった?」
「ちがっ....」
「嫌だったら言ってくれれば近寄ったりしなかったのに。」
ずっと笑って私は呟いた。
「私、好きだったのにな、陽汰のこと。私だけだったかぁ。ごめんね」
「な、んで謝るんだよ」
「振り回してごめんなさい。」
「ちっ.....ふざけんなよ...」
そう呟いた陽汰。
陽汰は穏やかな人だと思ってた。けどやっぱり男の人なんだね。
初めて陽汰のこと怖いって思った。
だんだん手が震え始めてきた。
「矢城のこと好きじゃないなら俺がもらうよ?」
朔が私の肩を軽く引き寄せた。
「っ!!....」
陽汰は顔をしかめた。
「月葉.....」
朔に優しく呼ばれて朔を見る。
優しい手つきで私の頬を触る。
朔ってこんなに背が高かった?
朔ってこんなにカッコよかった?
朔ってこんなに優しい人だった?
朔のことはわかってるつもりだったけどだんだんわからなくなってきた。
「.....勝手にしろよ!俺はこいつなんか好きじゃない」
冷たい目でそう言われた。そしてどこかへ行ってしまった。
悲しくて悲しくて悲しくてすっごい悲しくて涙が全然止まらなくなった。
「なんか、ごめんな?」
心配な顔をして言った。
「ううん、ありがとね。朔。」
「.....無理して笑わなくてもいいのに」
朔はなんでもお見通しなんだね。
「そうしないと自分が自分じゃなくなりそうでさ(笑)」
朔は困ったように笑って辛くなったら言ってと優しい言葉を残してその場を
去った。私は授業を受ける気にはなれなかったので屋上でサボる。
「矢城」
「朔.....」
朔はイタズラな笑顔でにひひと笑った。
「やっぱり心配だったから」
ほんと、朔ってわからない。
おどけたと思ったら優しく笑うし、
子供だなって思ったら大人みたいに接してくるし。
私の知らない朔がいつの間にか顔を覗かせていた。
「俺さ、今まで恋愛とか全然興味なくてさ。」
いきなり朔が話し出した。
「う、うん」
「初めて彼女ができたのが中1。一回も喋ったことないやつだった。でも初
めて彼女ができる。そういう軽いノリで付き合ったんだ」
軽いノリか.....。陽汰もそうだったのかな。
「で、俺初めてだからなんにもしなかったんだわ。デートとかそういうの。
わかんねーからさ(笑) そしたらあっちがつまんないから別れるとか言ってさ。
俺は別に好きじゃないからどうってことなかったけど。」
「でも、俺高校入って初めて自分から恋に落ちた。ひたむきに頑張っている
あいつを見てたらなぜか目が離せなくなって。いつも目で追いかけてて。」
あいつ?朔の好きな人かな。
「でもあいつには好きな人がいて。この気持ちは伝えずにそっとしまってお
こうって思った。」
そんな朔の話を聞いてると恋って本当に難しいんだなって思う。
数学は計算して答えが出るけれど恋愛は計算したって答えは出ない。
漢字とかは覚えとけば書けるけれど恋愛は覚えるなんてできない。
恋は幸せになれる。その一方でツラくもなる。
恋愛の教科書や先生がいたらどんなに楽だったか....。
