番号を交換したものの、恭ちゃんからの電話はなかった。
でも街に行けばいつも恭ちゃんはいた。
恭ちゃんは友達が多い。
いつも誰かといた。
男ばかりの日もあれば、女の子と2人だけの日もある。

だけどいちいち気にしない。別に興味はないから。








恭ちゃんと番号を交換した夜、アドレス帳を見ていた。
表示される『晃』の文字。
ハートマークもそのまま残っていた。



晃が日本を経ってまだ3ヶ月ほどだった。
でも何年も会っていないように感じた。
同じ日に産まれ同じ血液型を持つ私たちはいつも一緒だったから。




思い出す晃はまっすぐで輝く瞳のままだった。





涙が零れた。
苦しかった。


もう戻らない時間。
日本にはいない晃。
変わってしまった私と、変わらない晃。
もう会えない。



突然現実が胸をえぐった。














梅雨が嘘だったように暑くなる夏。
週末のクラブはいつもより人が多い。
夏のせいだ。


暑苦しいフロアで恭ちゃんを見つけた。
話す事もないが、『お疲れ』といつものように声をかけた。

私に気付いた恭ちゃんが
『今日予定ある?』
と聞いてきた。




いつも『疲れてないよ〜』と返すのに…



『ないよ。なんで?』
『なら今日は俺と遊ぼう』

恭ちゃんは笑っていなかった。




恭ちゃんとクラブを出て夜の街を歩いた。
友達の多い恭ちゃんはいつものように挨拶を交わしている。





近くの公園に移動し、恭ちゃんが腰をおろした。
てっきり別のクラブに行くと思っていた私は少し戸惑っていた。






『じゃ、聞いてもいい?』
と、恭ちゃんは突然話し始めた。




『俺のこと嫌いなわけ?』
『は?』

間髪入れず声が出た。

『何言ってんの?訳分かんない。』
あきれた…本当面倒臭い。



『いや〜番号交換してから電話もないしさ、何なんだろって思って…』
『ちょっと待って!それはお互い様でしょ?それに週末はいつも会ってたよ。クラブでだけどね。』



『なら良かった!いや〜何かさ、避けられてる?ってゆうかそんな感じしててさ〜。でも良かった!誤解だった。』
そうゆう恭ちゃんは笑っていた。




その笑顔で場が和む。
それは恭ちゃんの長所だ。
私もつられて笑っていた。




まだ時間も早い公園のベンチ。
私たちは色んな事を話した。
住んでいるところや年齢や好きなもの、高校生だと言うと恭ちゃんはビックリしていた。
恭ちゃんは去年、第2高校を卒業した先輩だったのだ。


『え?まじで?でも会ったことないよな〜』
『そうだね。私、学校では誰とも話してないの。』





すると恭ちゃんがとても悲しそうな顔をし、私を見つめた。





『寂しくないの?』





隠せないと思った。
私は恭ちゃんを見くびっていた。
恭ちゃんは人をよく見ている。
だから人が集まるんだ。



恭ちゃんの瞳は輝いてない。
でもまっすぐだった。




『寂しいよ。でも詮索されるのは嫌なの。私は自分をうまく表現出来ない。』



そう小さく答えると 『そっか』 と恭ちゃんも小さく答えた。


恭ちゃんはそれ以上聞いてこなかった。
それが恭ちゃんの優しさだ。
私が思っていたよりも、もっと優しい人だったんだなと気付かされた。







深夜をまわっていたが夏の夜は過ごしやすい。
時間も忘れて話していた。
恭ちゃんとはたくさん共通点があった。
学校が一緒だった事、クラブが好きだとゆう事、それに好きな映画も一緒だった。

恭ちゃんは笑顔を絶やさず私の話を聞いていたし、私も笑顔で恭ちゃんの話を聞いていた。

久し振りに楽しいと思えたし、声を出して笑っていた。
恭ちゃんは人の笑顔を引き出す天才かもしれない。









『そろそろ帰るわ。』 と私から切り出した。
『了解〜!んじゃ、また!』 と恭ちゃんも腰を上げ、公園を出る。










『今度電話する!』











そう言ったのは私だった。