10年後

美香ちゃんは春から晃が勤めている店のアルバイトとして働く事になった。

複雑な気持ちだったが、美香ちゃんはいい子だ。
きっと即戦力になるだろう。
晃もそれを期待していた。







『明日、店で歓迎会があるんだよ。新入社員とそれから美香ちゃんの。店長がさ、紹介してくれたからお礼をしたいってさ!だから一緒に来てくれない?』


珍しく12時をまわる前に帰って来た晃がそう言った。


『分かったよ!明日は週末だし大丈夫。用意しておくね。それじゃ、先に寝るね。』


そう言って晃にキスをした。








ベットに入ってからも寝付けなかった。
美香ちゃんの事を考えていた。




別にお礼をしてもらうほどの事はしていない。
むしろ紹介したのは晃だ。
だけど、美香ちゃんはきっと私の名前を出したんだろう。
どこまでも気を使う子なんだ。








『あ、もしもし?今日もお疲れ様!店には慣れた?』

晃の声がする。
相手は美香ちゃんだろう。


もう頭がおかしくなりそうだった。




晃の声は聞こえていた。
だけど、私は声を殺して泣いた。














『お疲れ様ですー!今日は来てくれて本当ありがとうございます!こっちですよ!』

制服を着たままの美香ちゃんは私を笑って迎えてくれた。



『こちらこそありがとう!』
私は美香ちゃんよりも年上だ。
気持ち良く振舞わないと…




美香ちゃんが通してくれたのは晃の隣の席だった。




『お疲れ様!』
まっすぐ輝く瞳が優しく笑った。







『店長、紹介しますね!俺の彼女です!』


これで安心した。
私は晃の彼女なんだ。
誰よりも長い時間を晃と過ごしている。
そして誰よりも深く繋がっている。


繋がっていたのに…





美香ちゃんは満遍なくみんなと話していた。
そして最後に私の隣へ来た。


『本当、紹介してくれてありがとうございす!みんな優しいですし、楽しいです!晃さんとも仲良くなれたし!』






美香ちゃんは笑っていた。
だけど、私は笑えなかった。

晃はトイレに行っていた。




晃がいなかったから…
まっすぐ輝く瞳がいなかったから…
だから笑えなかったんだろう。





美香ちゃんの素直で純粋な心が私にはつらかった。



『うん。そうだね。』





大人げなかった。
だけど、まだ私は大人になれない。
大人になるほど、心が広くなかった。


何もかも嫌気がさした。



前向きな晃も。
素直で純粋な美香ちゃんも。









そして、屈折した私自身も。











『ごめん。なんか今日は体調が良くないの。先に帰るって晃に伝えて。』


帰りたい。
1人になりたい。
もう分からない。











気付かれないよう帰ろうとタクシーを探す。
大通りまであと少しのところ。
















『いた!』















どうして。













恭ちゃんが笑っていた。














私はまっすぐ輝く瞳をおいてきたんだろうか。