『お疲れ。かなり久し振りだね。』


大音量のフロアで聞こえるか聞こえないか分からないほどの声でつぶやいたのは私だった。


『疲れてないよ〜!本当久し振り!
…それで??そちらは??かれ…』

『そう!彼氏の晃です!はじめまして!』






晃は何か違和感を感じていたに違いない。
私も晃に違和感を感じていた。



『彼氏が出来てたんだね!知らなかった!でも… 良かったよ!幸せになったんだ!』


恭ちゃんは笑っていた。
そして、それ以上何も言わなかった。



恭ちゃんはいつも優しかった。
いつも私を見つけてくれた。
いつも…笑っていた。








何とも言えない違和感が3人を重たくしていた。
タイミングよく、晃がプレイする時間だ。




『そろそろブースに行くよ!』
『あ!私も!フロア行く!』




私と晃の手は繋がったままだった。
それで良かった。




私と晃は誰よりも深く繋がっているべきだった。
同じ日に産まれ同じ血液型を持つ2人はいつだって繋がっている。



晃のまっすぐで輝く瞳は私だけをうつしたままだった。









晃がセレクトした音楽は私が一番好きだと言った曲だった。
そしてブースの晃とフロアの私は目が合った。
繋がっていたんだ。



誰にも分からない。

だけど


誰にも止められない。
誰にも入れない。
誰にも壊すことは出来ない。
私と晃は特別だった。













フロアで踊り続ける私の後ろから恭ちゃんが話し掛けてきた。





『もしかして、なんだけど… 彼はあの時言ってた人?』

『そうだよ。最近日本に帰って来たんだ。やっと会えたの…』



2人とも笑っていなかった。




『本当に良かったな!心配してたんだ。あの時からずっと…』

『でも… 安心した。だから彼の手を離さないで!』



恭ちゃんは笑っていた。







『ありがとう…』


そう言ったわたしの声は晃の音楽でかき消された。







3時をまわってピークタイムを終えたフロアには私と数人しか残っていなかった。









『俺、ちょっと疲れちゃった!外で休憩しない?』






そう言って私の手を繋いだのは、まっすぐな瞳を輝かせた、私の大切な人だった。










『あの子、元彼でしょ?』









ドキっとした。
晃はいつだって私をまっすぐ見ていた。





『うん。そうだよ。晃がオーストラリアへ行ってた間、知り合ったの。』

正直に答えた。
晃のまっすぐで輝く瞳には嘘をつけない。




『言ってくれたら良かったのに…じゃなきゃ、俺があの曲セレクトしないでしょ!』


晃は笑っていた。
まっすぐ輝く瞳で私を優しく包み込んでくれた。






『恭ちゃんも晃の事知ってるんだよ。私、ずっと晃を忘れられなかったから…だけど、言えなかった。隠していた訳じゃないんだけど…だけど…』





晃は私の肩を抱いて、そして…








『ごめんな…』








そうつぶやいた。









それは私が言わなきゃいけなかった事なのに…