夏が始まる前、恭ちゃんと別れた。



恭ちゃんは最後まで優しかった。
『わかった』
と一言つぶやいた恭ちゃんの瞳が輝いていた。
涙のせいだったか。
それはわからなかった。
気付かない振りをした。

だけど恭ちゃんは笑っていた。







これで良かったんだ。











夏のあいだ、私はとにかく働いた。
毎日忙しかったが、それでも研ぎ澄まされるような疲労だった。

クラブへはもう行っていない。
恭ちゃんと会ってしまえば、また私たちは戻ってしまうような気がしていた。



お互い求め合っている。
それは分かっていた。

だけど、いくら戻っても、変わらないものがある。
隠せないものがある。






私は晃を愛していた。
恭ちゃんにだって気持ちは同じだった。
だけど、違和感がある。




何かが違っていた。




同じ日に産まれ同じ血液型を持っている。
心よりも、もっと深い繋がりがある。



気付いていた。
私はやっぱり晃を忘れられない。






夏の終わり私は自分の気持ちに気付いてしまった。
初めて晃への気持ちに気付いた2年前と同じ季節だった。





アドレス帳を開く。
『晃』
と表示された画面が胸をしめつける。





どうして置いて行ったの?
どうして最後に『愛してる』と言ったの?
どうして連絡をくれないの?





けれど
『元気?』
それだけが聞きたかった。



晃が元気でいてくれればそれだけでいい。
それだけで、私は生きていける。
それだけでよかった。

アドレス帳のハートマークは変わらずそこにあった。