10年後

通勤ラッシュだ。
隣の人の傘が私のストッキングを濡らす。
だけど謝らない。


『お互い様』だから。
気付かないうちに私も彼女のストッキングを濡らしていた。










恭ちゃんは私を追いかけてきた。





『待って』


窓越しに走る恭ちゃんが見える。


私はタクシーに飛び乗った。










恭ちゃんとはもう連絡を取っていない。
何度も何度も着信があった。
メールだって何通もきていた。

ただ、どれも返していなかった。
返せなかった。
恭ちゃんを責めてしまいそうだった。





だけど、分かっていた。

私は毎日忙しかった。
恭ちゃんとも会えなかった。

もしかしたら恭ちゃんは寂しかったのかもしれない。



お互い様だ。
だけど、私は自分の罪を隠した。



いつだって笑っていた。
いつだって私を探してくれた。
いつだって優しかった。

いつだって私はそれに甘えていた。









『いた!』










恭ちゃんは笑っていなかった。
『話せる?』


話すしかなかった。





クラブから近い公園で話したのは私だった。



『恭ちゃん、今日までごめんなさい。』


『うん。キツかった…』
恭ちゃんは笑った。
それから恭ちゃんが続けた。


『あの子は本当に何でもないんだ。たまたまそこにいただけ。本当に何でもない。だから追いかけたんだけど…』

恭ちゃんの瞳がまっすぐ私を捉えた。
恭ちゃんの瞳にうつる自分が恥ずかしかった。





お互い様じゃない。
罪を隠した私の責任だった。







だけど、社会に出た私と大学生の恭ちゃんとは壁が大きかった。
それは隠せない。
お互い気付いていた。
だけど、口に出せばもう終わってしまいそうだった。



だけど離れたくなかった。
一緒にいたかった。



『別れたくない』











そう言ったのは涙で瞳が輝いた恭ちゃんだった。
恭ちゃんと出会って1年が経っていた。