10年後

スーツを着て、パンプスを履いた。
鏡にうつる私は少しだけ大人に見えた。

働き始めて1週間。
とにかく忙しかった。



恭ちゃんとはあまり会えなくなっていた。
だけど、2人の関係は変わっていなかった。
連絡は取り合っていたし、電話越しの恭ちゃんはいつも笑っていた。



だけど、会えなくなってから恭ちゃんも少し忙しそうだった。
恭ちゃんはいつも友達と遊んでいた。


2人の関係は変わっていなかった。だけど、変わる前兆だったのかもしれない。








週末、恭ちゃんはつかまらなかった。




『予定があるんだ…ごめん。来週は?』






恭ちゃんの顔が見えなかった。
電話では伝わらない。
恭ちゃんの謝罪も、私の寂しさも。





クラブへ行った。
恭ちゃんと降りた階段も今日は1人だ。
恭ちゃんの顔が見えない事がやっぱり寂しかった。




ドアを開けてすぐにフロアに行った。
誰かと話す気分ではなかった。





踊った。とにかく踊り続けた。
何も考えたくなかった。






深夜をまわって、ピークタイムを過ぎた頃、疲れてきっていた。


フロアから出てカウンターに目をやる。





見覚えのある後ろ姿。
いつだって私を探していた。
いつだって優しかった。





優しかったのに…








恭ちゃんは笑っていた。
だけど、私は知らなかった。




(…誰? その子誰なの?)









もう分からなかった。






恭ちゃんは私に気付いた。
振り向いた恭ちゃんは笑っていなかった。


多分笑っていなかった。
薄暗いクラブでも恭ちゃんの顔が見えなかった。